レーダ・LiDAR AE16:NeXtRADマルチスタティックレーダシステムに Pentek SDRインタフェースを提供

背景:

NeXtRADイメージ

NeXtRADは、ロンドン大学(UCL)とケープタウン大学(UCT)が共同開発したデュアルバンド、デュアル偏波のマルチスタティックレーダシステムです。

このシステムの主な目的は、シークラッタに埋め込まれた小型レーダで海上のターゲットを検出する為のマルチスタティックデータを収集することです。NeXtRADは、数百メートル離れた3つのステーション(またはNode)から構成されるマルチセンサーネットワークで、Figure 1に示すように共通のターゲットエリアに焦点を合わせています。Node 0のみがレーダ信号を送信および受信し、Node 1および2は受信専用です。システムは、3メートルの距離分解能を達成するために50 MHzの帯域幅を必要とします。各Nodeは、10度のビーム幅を持つ二重偏波LおよびXバンドアンテナ(IEEE定義)を持っています。この配置は、モノスタティックレーダと組み合わせて一対のバイスタティックレーダを効果的に形成し、これは、3つの視点からターゲットデータを同時に取得することができることを意味します。このトポロジは、シングルセンサーレーダよりも優れています。NeXtRADは、UCTとUCLによって開発された単一周波数マルチスタティックレーダであるNetRADの高性能バージョンです。

NeXtRADプロジェクトの初期段階で、Pentek社のModel 71621トランシーバシステムがシステムに適したソフトウェア無線インタフェースとして認識されていました。この記事は、Pentek社のModel71621モジュールをシステムのデジタルトランシーバとしてモノスタティック構成で使用するNeXtRADの開発の初期段階について説明します。

 

NeXtRADシステムの概要:

NeXtRAD送信ノードブロック図

NeXtRADマルチスタティックシステムのアクティブノードは、次のユニットで構成されています(Figure 2を参照)。

● ソフトウェア無線(SDR)インタフェース
● 無線周波数(RF)受信機と送信機
● FPGAベースのタイミングコントロールユニット(TCU)
● ハイパワーアンプ

SDRインタフェースとしては、Pentek社のModel 71621(Figure3)が選択されており、3chのA/Dコンバータと2chの800 MHz D/Aコンバータを備えています。NeXtRADはパルスドップラーレーダで、波形の生成とデジタル化は各Nodeで完全にコヒーレントである必要があります。コヒーレンシを達成するために、各Nodeには、周波数分配ユニット(FDU)を介してModel71621および受信機励振器(REX)に分配されます。ローカルGPS統制発振器(GPSDO)からは非常に安定した10MHz基準信号が供給されます。これは、与えられたNode内の発振器間に位相ドリフトがないこと、そして任意の2つのNode間の発振器の相対位相が一定であることを保証します。

Model71621は、フロントパネルのSSMCクロック入力から10 MHzの信号を受け取るように設定できます。 GPSDOは、レーダ測定の開始を正確に同期させるトリガパルスも供給します。GPSDOからの最初のトリガイベントの後、TCUが引き継ぎ、パルス繰り返し周波数(PRF)でModel71621にトリガパルスを送ります。

 

システムセットアップ:

Model 71621ボード

送信パルスは、センサネットワークのアクティブノード内のModel71621によって生成されます。このシステムは、1~2kHzのPRFで、50MHzの帯域幅および1~10マイクロ秒の持続時間を有する線形周波数変調パルスを使用します。Model71621は、2chの16ビットD/A出力チャンネルの1つから、720 MHzの出力周波数により125 MHzの中間周波数(IF)で50 MHz帯域幅の信号を供給することができます。REXはIF波形をLバンドまたはXバンドにアップコンバートします。増幅後、波形は適切なアンテナを介して送信され、垂直または水平のいずれかの偏光で目標領域を照射します。

送信エネルギーは、ターゲットシーンによってさまざまな方向に散乱されます。各ノード位置のアンテナは、そのエネルギーのごく一部だけを遮断します。Lバンド信号は垂直または水平偏光でキャプチャされ、2つのXバンドチャネルが両方の偏光を同時に記録します。各ノードの受信機は、受信した信号を増幅し125 MHzのIFアナログ信号にダウンコンバートします。Model71621のA/Dチャンネルは、単一のLバンドと2つのXバンド波形を記録します。

NeXtRADでは、Model71621の波形生成エンジンがオンボードDDR3 SDRAMにさまざまな波形を保存します。波形生成は、Model71621のフロントパネルのトリガ入力に供給されるLVTTL立ち上がりエッジによってトリガされます。 DAC5688 D/Aコンバータへのデータ入力レートは180 MSPSです。D/Aのデジタルアップコンバータ(DUC)は、スペクトラムを0HzからIFに変換します。インターポレーション係数が4の場合、D/Aの出力サンプルレートは720 MSPSに増加します。その後IF信号は、増幅のためREXによってRFアップコンバートされます。

受信チェーンでは、アンテナで受信されたRF信号は、Model71621のA/Dコンバータでデジタル化するためにIFにダウンコンバートされます。各パルスでデジタル化を開始するために同じトリガ信号が使用されます。 ADCは、Fs = 180 MHzでサンプリングするように調整されています。これにより、入力信号が第2ナイキストゾーンに配置され、結果としてスペクトルは第1ナイキストゾーン0~Fs/2に、すなわち30~80MHzに変換されます。

Model71621のデジタルダウンコンバータIPコアを55 MHzに調整し、間引き係数を2に設定すると、入力信号はDCに変換され、Fs/2 = 90MHzでIQサンプルが生成されます。ダウンコンバートされた16ビットIQサンプルは、後処理のためにPCIe x8インタフェースを介してホストコンピュータのメモリに転送されます。

レーダのコヒーレンシに関する重要な検討事項は、D/AのデジタルアップコンバータおよびFPGAのデジタルダウンコンバータIPコアの数値制御発振器を、外部トリガの各立ち上がりエッジで既知の値にリセットする必要があることです。これが行われていないと、D/AからのIF信号、およびデジタルダウンコンバータ(DDC)によって生成されたベースバンド信号に予測不可能な位相ずれが起きます。

DAC5688およびDDC IPコアの制御レジスタを適切に設定することにより、DUCおよびDDCで生成されるデジタルSineおよびCosineの位相を外部トリガの立ち上がりエッジでゼロにリセットできます。これは、生成またはデジタル化の際にレーダ信号に導入された位相オフセットがパルス繰り返し間隔の間で変化しないので後処理において無視できることを保証します。

 

初期テストと結果:

ドップラーシフトスペクトラム

Model71621用のコントローラソフトウェアは、Pentek社のReadyFlowソフトウェアライブラリと任意波形発生器、スペクトラムアナライザ、オシロスコープを組み合わせて開発されました。デジタル化および波形生成チェーンは、これらのプログラムを実用的な情報源に統合する前に、別々のコントローラプログラムで開発およびテストされました。REXやその他のサブシステムを導入する前に、D/A出力チャンネルの1つと信号スプリッタを使った簡単なIFループバックテストで十分でした。

Figure 4に示すハードウェア構成は、AWGを使用してModel71621に立ち上がりエッジトリガを供給し、REXとModel71621へのリファレンス信号同期のために信号発生器を使用して、アクティブノードの低電力(<24dBm送信電力)ベンチトッププロトタイプテストに使用されました。このシステムを使用して、Figure 5に示すように、近距離でのドップラーシフトによって移動ターゲットを検出することができました。このデータは、50 MHzの帯域幅を持つ0.5マイクロ秒の持続時間のパルスを使用して、送信機から約75mの所で移動する人間ターゲットのドップラーシフトを示しています。半径方向目標速度vおよびドップラーシフトは、式

 

v = c/2(Fd/Fc)

 

によって与えられ、ここで、cは光速、Fdはドップラーシフト、Fcはキャリア周波数である。Figure 5のグラフのt = 5秒でFc = 8.5GHz(Xバンド)およびFd = 100Hzの場合、ターゲットは約1.7m/sで向かっています。

およそ10秒~22秒、そして30秒~32秒の間に動いている大きな物体は、駐車場から後退して車が走り去ったことを示しています。パッシブノードは、送信機が不要であることを除いて、本質的にアクティブノードと同一です。アクティブノードのModel71621用の同じ制御ソフトウェアを使用して、パッシブノードはアクティブノードとまったく同じ瞬間に波形を記録することができます。

 

まとめ:

システムのアクティブノードでのモジュールの初期テストは、Pentek製Model71621がパルスドップラーレーダーアプリケーションに非常に適していることを実証しました。必要な追加のハードウェアを用いて、アクティブノードのデジタル送受信機用のコードをわずかに変更するだけでパッシブノードをネットワークに導入することができます。全体として、Model71621は位相安定性と帯域幅に関する要件を満たしており、アクティブノード用の既存のレシーバエキサイタと容易に統合することができました。

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原文ドキュメント:Pentek社

PIPE262.pdf

A Pentek Transceiver Provides the SDR Interface for the NeXtRAD Multistatic Radar System

 

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Pentek社について

Pentek社は、ISO 9001:2015認定企業として、デジタル信号処理・ソフトウェア無線・データ収集用の組込みコンピュータボードおよびレコーディングシステムを設計・製造しています。製品には、商用環境と耐環境の両方に対応したAMC、XMC、FMC、PMC、cPCI、PCIe、VPXのフォームファクタで準備されており、レーダ、無線通信、SIGINT、ビームフォーミング等の用途に幅広く利用されています。Pentek社の詳細については、www.pentek.comをご参照ください。

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